【書評】天祢涼著『希望が死んだ夜に』‐深く考えさせられる社会派青春ミステリー
蜜柑です。
今回は、また初めての作家さんを読めて、とても考えさせられたので、紹介します。
天祢涼さん著『希望が死んだ夜に』。
昨年から本屋の文庫コーナーに行くと必ず目に留まる本でした。まず、このタイトルからなかなか衝撃でした。
小説って、基本的には最後にはハッピーエンドではないにしろ、何かしら救いがあるような終わり方をするものが多いし、読み手もそういうものをなんだかんだ求めていることが多いと思うので、このタイトルから「希望が死んだ」って、そんな絶望的なタイトルにしていいのか・・・と考えながらも、気になって、購入しました。
読了した結果、やはりとにかく暗くて、重いです。
ですが、ただ暗くてどん底の小説ではありませんでした。確かに読後感もなかなか重くて立ち上がれないくらでしたが、私はこの作品は、もっといろんな人たちに読んでほしいと強く思いました。
まずは、あらすじを紹介します。
神奈川県川崎市で、14歳の女子中学生・冬野ネガが、同級生の春日井のぞみを殺害した容疑で逮捕された。少女は犯行を認めたが、その動機は一切語らない。何故、のぞみは殺されたのか?二人の刑事が捜査を開始すると、意外な事実が浮かび上がってー。現代社会が抱える闇を描いた、社会派青春ミステリー。(文春文庫)
社会派青春ミステリーって、色々積み込みすぎじゃない?どれも薄っぺらくなってしまうのでは。。。と内心あらすじを読んだだけでは私も思ってしまいました。
でも、読了した後は、本当にどれも中途半端でなく、しっかり描かれていました。一番心配していたのは、ミステリーの部分でしたが、見事に騙されてとっても面白かったです。
ということで、ネタバレなしで紹介できる社会派の部分をまずは紹介します。
◎社会派について
この作品のテーマでもある、社会派というのは、貧困問題です。
主人公である冬野ネガは、とにかく貧しい暮らしをさせられている中学生です。
幼少期、ネガの父親がネガや母親に暴力をふるうようになって、母親はネガを連れて逃げます。その後、父親と母親は正式に離婚しますが、養育費は一切もらわずに母一人、子一人で暮らすことになりました。
母は、弁当屋やスナックで働きますが、やがて精神的に不安定になり、働けなくなってしまいます。
そんなネガのある日の夕飯は、ご飯とみそ汁とハム三枚と、リンゴ半分。
ネガは自分のことを少しも不幸だと思っておらず、むしろ幸せ者だと感じています。
自分の生活を少しも異常だと思っていない描写は、なかなか苦しかったです。
ごちそうさまをして、今度こそ宿題をしようと思ったけれど、もうすっかり暗くなっていた。電気代を考えると、宿題は明日に回した方がいい。家中の電気を消して、シャワーを浴びる。電気をつけてお風呂に入る人もいるらしいけれど、意味がわからない。石鹸の場所なんて見なくてもわかるし、それを身体にちょっとこすりつけて、頭からお湯を被るだけじゃないか。明かりに頼る必要が、一体どこに?( p56)
14歳の少女が、電気代を考えて生活をしている。
宿題もできず、シャワーも真っ暗の中でしか入れない。
でも、ネガはそのことを少しもかわいそうだと思っていなくて、むしろ電気をつけて入る人をふしぎに思っています。
そんなネガの生活がリアルで、麻痺していて、読んでいる側としてはどうにかならないのかと考えてしまいます。
この貧困が、今回の事件である春日井のぞみの死を巻き起こしてしまいます。
春日井のぞみは、フルートが上手な吹奏楽部の美人でクラスの人気者のネガのクラスメイトです。
特に仲が良い二人でもない上に、のぞみとネガの生きている世界は正反対です。
ネガは、クラスメイトから汚いものを見るような目で見られており、対するのぞみは、誰もが認める人気者の美少女です。
あらすじから、ネガが殺した理由は、「嫉妬心」からか?と考えてしまいます。
しかし、この作品はそんな単純な物語ではありません。
・なぜ、ネガはのぞみを殺したのか?
・ネガとのぞみは、どういう繋がりがあったのか?
この二つが最初は気になって、どんどんページを捲ってしまいました。
そして、たどり着いた真実がとっても切なかったです。。
『希望が死んだ夜に』というこのタイトルは本当に素晴らしいと思います。
後、この作品は、刑事目線と、ネガ目線の二つが存在しており、
刑事目線のネガのイメージとネガ自身の心情のギャップもあり、そこもとても面白かったです。
この作品をおすすめしたい人は、
①学園ミステリ―が好きな人
②重めの作風が好きな人
③今の生活に不満を感じている人
です。
当てはまる方はぜひ読んでみてください。
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そして、ここからはネタバレありで私のレビューを書きます。
まだ読んでいない方は、一度読んでみてから、またここに戻ってきていただけたらと思います・・・。
ここからは、ネタバレありということで、
上では述べなかった、社会派青春ミステリーの「青春」と「ミステリー」についてレビューします。
◎青春について
この作品の青春というのは、やっぱりネガとのぞみの青春です。
まず、一つの驚きとしては、のぞみも貧困を抱えていたこと。
これは、物語の中盤で明らかになりますが、私はネガと同じように驚いてしまいました。
貧困な家庭だということを隠していおり、さらに本当はいい子ちゃんではないのぞみは、ネガと同じバイトで働いて、どんどんネガに真実を明らかにしていきます。
ネガもそれを聞いて、どんどん二人は心を通わせていく。
真夜中のバイト。洋館を見つけた時の二人のはしゃぎ様。フルートに関する夢を語るのぞみ。それを見て、のぞみをまぶしく感じるネガ。
他の人は誰も知らないネガとのぞみの放課後が、とっても良くてまさに青春だなあと感じました。
そんな風につながりは見えていき、のぞみと親友になっていく過程があるのに、なぜネガは、のぞみを殺したのか?と私はどんどんわからなくなっていきました。
そして、二人が仲良くなるたびに、のぞみが死ぬという事実は最初に見せられているので、それが辛かったです。
一番好きだったのは、ネガがのぞみに怒るシーン。
フルートの講師に見てもらえる直前で、のぞみが怖くなって、帰ろうとする場面は印象的でした。
「つき合わせてごめんね、ネガ」
「ほんとだよ。時間を無駄した。あたしの方こそばかみたい。所詮、のぞみはお嬢さまだったってことだよねえ」
(中略)
「のぞみは、将来のことをしっかり決めてるから眩しいんだよ。一緒にいたら楽しくて、勉強にもなって、あたしもがんばろうと思えて・・・・・・なのに恥をかくから逃げるなんて、そんなの許さない。なにしに来たんだよ。眩しいと思ったあたしはなんだったんだよ。ちゃんと責任取れよ!」(p209~210)
こんな風にネガがのぞみにガツンという所がとても好きでした。
これこそ、まさに青春だなあと思います。この歳だから友達にガツンということができるのだと思います。
大人になればなるほど、友達には遠慮が発生してしまって、こんな風にまっすぐ向き合う事もないのではないかなと思い、なんだか懐かしくもなりました。
◎ミステリーについて
あらすじからも、刑事にすぐ認めている様子を見ても、最初からずっと
のぞみを殺したのは、ネガだと思っていました。
この作品は、ネガ目線で、なぜのぞみを殺したのかを見ていく物語だと思っていたからです。
でも実際は、違いました。
本当に最後の方で、二人が自殺を目論むシーンがあって、それで先にのぞみが死んだということになったので、
そういうことか・・・と思い、のぞみは、ネガに生きてほしかったから自分だけ死ぬために、先に死んだのだな・・確かにこれは、『希望が死んだ夜に』というタイトルそのものだなと思いました。
でも、本当のラストは違いましたね。
最後の最後まで、二転三転された真実が見えるのは、まさにミステリーとしての成功だと思いました。
最近は、「驚愕のラスト!」とか「ラスト3ページ覆される!」とかそういった帯文も多いし、人気が出る小説もそういったものが多いです。
実際、そうやって売れている本を見ると私も気になってしまうのですが、実際読んでみると「いうほどではないな」と思って、どこか期待はずれに感じてしまいます。
ですが、この作品は、そういった謳い文句では売っていなかったので、まさかこんな驚きも与えてくれるなんて・・・と感じられました。
実際、このラストはある意味、ネガとのぞみの心が通い合った最後も見れて、希望が死んでいても、少しだけ救いが見えたところがよかったと思います。
読後感は、確かにずっしり来るし、どうにかならないのか・・・と考えさせられますが、社会派青春ミステリーとして売って間違いないと思いました。
後この作品を読んだことをtwitterで呟いたらまさかの天祢涼さんご本人にいいね頂いたので、エゴサしているんだなあ・・・と思って、ますます応援したくなりました。
なので、読んだ後はこの作品について、呟いてみては・・・と思います!