【書評】小川糸著『ライオンのおやつ』‐穏やかな死への準備
こんにちは!蜜柑です。
今回紹介するのは、2020年本屋大賞第2位のこちらです。
小川糸さん著『ライオンのおやつ』
本屋大賞は、私が一番好きな賞です。。。
昨年は、瀬尾まいこさん著『そして、バトンは渡された』でした。この書評については、このブログの1回目にしているので、ぜひ読んでみてください。。
全国の書店員さんが「この本、沢山の人に読んでほしい!」という本を選んで投票した結果なので、難しい本や文学的すぎる本は、あまりランクインされません。
基本的に、読みやすくて感動する本が多いようなイメージがあります。
ちなみに今年の1位は、凪良ゆうさんの『流浪の月』でした。
この作品については、また後日書評するとして。。
今回は、第2位の『ライオンのおやつ』を紹介します。
まずは、あらすじから。
男手ひとつで育ててくれた父のもとを離れ、ひとりで暮らしていた雫は病と闘っていたが、ある日医師から余命を告げられる。最後の日々を過ごす場所として、瀬戸内の島にあるホスピスを選んだ雫は、穏やかな島の景色の中で本当にしたかったことを考える。ホスピスでは、毎週日曜日、入居者が生きている間にもう一度食べたい思い出のおやつをリクエストできる「おやつの時間」があるのだが、雫は選べずにいた。(ポプラ社)
あらすじから見ても、
「ああ、病気の主人公の話ね」「最後泣かせに来る悲しい物語ね」と思う方も多いかもしれません。
実際、私も最初はそんなイメージで読むまでにどうしようかなと悩みました。
病気の主人公・もしくは病気の恋人みたいな設定って多いですよね。それの世間受けがいいのもあって、量産化されているようなイメージがあって、あんまり最初は読むのを抵抗していたのですが、私の母がかなりおススメしてきたのと、本屋大賞2位という肩書により、読むに至りました。
結果、、、読んでよかった!
というのも、読後感が最高でした。
確かに悲しい話ではあることは間違いないのですが、ただ悲しいわけではなくて、読み終わった後かなり穏やかな優しい気持ちになります。
私の母は、「ボロボロに泣いた」と言っていました。
私もボロボロというまではないにしろ、最後は自然に泣きました。
ここでは、特徴として、
①穏やかな死
②おやつとは何か
③優しい文体
の順番で紹介していきます。
①穏やかな死
皆さんは、「死」と聞いてどんなイメージを持ちますか?
「暗い」「怖い」「死んだらどうなるのだろう」・・・など色々あるかと思いますが
実際、「死」への恐怖は常にあると思います。
自分自身の「死」もそうですが、家族や身近にいる大切な人の「死」を考える事はとても悲しいし、辛いですよね。
「死」をテーマにした作品は、先ほども述べましたが、かなり多いです。
自分が病気になり、余命宣告を受けるものもあれば、家族や恋人の死により、悲しみに打ちひしがれる主人公。。。など考えれば「ああ、この作品も」と色々出てきますね。
私も、小説や映画でそういったものはいくつか見ましたが、その中で、この小説は
「一番穏やかな死」でした。
主人公の雫は、三十三歳で重病になり、余命を宣告されています。
余命を宣告されて治療にも向かい合いましたが、どうにもならなくて、最後に死ぬ場所を瀬戸内にある「ライオンの家」というホスピスで迎えることを決意します。
物語は、ライオンの家の代表・マドンナからの手紙から始まります。
実際に、治療のシーンなどもなく、助かるのか助からないのかがテーマではなく、
冒頭から「ああ、この物語はもう死へ向かう事しかないんだな」と感じます。
ですが、小川糸さんの優しい文章・瀬戸内の自然・入居者や犬の六花との出会いなどを通して、すぐに「この物語の中にずっと居たい」と思います。
このライオンの家を通して、雫はこれまでの人生を振り返っていきます。
雫はこれまでの人生で、自分の気持ちよりも人の気持ちを優先してきました。
そんな雫を説明する文章が私の中で、ドキッとさせられたので紹介します。
思い返すと、私はいつも、物事のすべてを「いい」か「悪い」かで決めてきた。それも、自分にとっての「いい」「悪い」ではなく、相手にとっての「いい」か「悪い」かで判断していた。先回りして相手の気持ちを推しはかり、相手が喜んでくれるなら自分を犠牲にすることも厭わなかった。相手が笑顔になってくれるなら、それが自分の幸せなんだと信じて生きてきた。
もちろん、それも間違いではないと思う。むしろ、ある意味ではとても正しい行いだ。
だけど、自分の感情を犠牲にしてきたのは、確かだ。癌になる根本的な原因はストレスです、と担当医に言われた時も、自分にはストレスなどない、だから担当医が言っていることは間違いなのだと信じて疑わなかった。(p35)
自分のしたいことよりも、人のしたいことを優先してしまう・・・
それが争いにつながらなくて、相手も喜んでくれるから自分は幸せ。
まず、この文章を読んだところで、「これ、自分もだ」と思った方は、読むことをおすすめします。
きっと、ライオンの家で過ごしたくてたまらなくなります。
ライオンの家は、海に囲まれたホスピスで、食事もとてもおいしく、自然も豊かです。
知り合いが誰もいないので、雫はのびのびと自由に過ごします。
そんな生活で、死へ向かう事がとても幸せだなと雫は思っていきます。
また、ずっと飼いたかった犬の六花との生活も夢のようで、とても楽しそうで、うらやましくなっていきます。
ホスピスの居住者達も皆それぞれ楽しそうで、ここで初めて雫は「自由」を手にします。
そんな穏やかな日々で生活をしながら自然と死へむかっていく・・・そんな雫を見ながら「死へ向かうことはそんなに恐ろしいことではないのかもしれない」「自分も死ぬのなら、こんな終わりを迎えたい」と読者は思うはずです。
②おやつとは何か
題名にもある「おやつ」とは何か?
これは、ライオンの家で毎週日曜日に開催されるおやつの時間のことを指します。
このおやつの時間は、入居者がリクエストした「死ぬ前に食べたいおやつ」を1つ選び、その思い出のエピソードを紹介し、入居者たちで共に最後に食べようというような時間です。
そのおやつのエピソードで、入居者の人生を味わえるというような素敵な時間です。
おやつは、くじ引きで決められます。
だから、選ばれる人も選ばれない人もいます。
全員が選ばれるわけではないことについて、雫は人生は「そんなものなのかもしれない」と納得するところが好きでした。
そのおやつを皆で食べる時・そのエピソードを聞く時・・・とてもやさしい気持ちになり、この物語の世界感が好きになります。
雫が選んだお菓子は何だったのか・どんなエピソードがあるのか・・・。
私は、雫のエピソードが読まれるシーンで泣きました。ぜひ読んでみてください。
③優しい文体
とにかく、小川糸さんの優しい文体がとても好きすぎる。
いくつも、「この文章いいなあ」と思える素敵な文章を見つけて、幸せな気持ちになったり、考えさせられたりしました。
ここでは、いくつか紹介します。
「思いっきり不幸を吸い込んで、吐く息を感謝に変えれば、あなたの人生はやがて光り輝くことでしょう」(p67)
素敵な文章ですよね。自分の生き方がどうなのか考えさせられる一文でした。
私の目標は、じゃあね、と手を振りながら明るく死ぬことだ。朗らかに元気よく、笑顔でこの世界から旅立つことだ。そのための準備を、今、ライオンの家でしている。マドンナをはじめ、たくさんの人に協力してもらいながら。(p123)
物語中盤で、ライオンの家で過ごしている雫が自分のこれからの生き方の目標を見つける所です。どんどん前向きになっていく雫が見れてとても好きな文章です。
今というこの瞬間に集中していれば、過去のことでくよくよ悩むことも、未来のことに心配を巡らせることもなくなる。私の人生には、「今」しか存在しなくなる。
そんな簡単なことにも、ここまで来て、ようやく気づいた。だから、今が幸せなら、それでいい。(p209)
物語終盤のこの文章。この文章に行きつくにあたった雫の心の動きに感動します。
他にもたくさん好きな文章がありました。
小説は、自分の思っている事・感じた事がうまく表現されていた時や、こんな考え方もあるのかとはっとさせられたり、自分にとって大切な言葉を見つけることが楽しいし、それが魅力でもあります。
私にとって、この小説に出会えてよかったと思えた理由は、
一番は文章の魅力にあるのかもしれません。
皆さんにとって、大切な言葉もこの小説で見つけられるかもしれません。
この小説をおすすめしたい人は、
①死に対してネガティブなイメージしかない人
②紹介した文章で少しでも好きな文章があった人
③人の顔色を常に浮かべてしまう人
です。
現在は、新型コロナウイルスの流行が続いており、落ち着かない日々ですが、
この小説を読むと、落ち着かない日々を忘れ、穏やかな気持ちになれました。
これを機に手に取ってみてください。。。
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